10 百瀬・小野瀬・野瀬さん
麻のつく地名では麻をやたらに「お」と読みました。また、麻の実を「おのみ」と言って、小鳥の餌としてペットショップで売っていたりします。この「お」は繊維や 紐 の意味の緒、つまり臍の緒とか下駄の鼻緒の緒なんですね。麻(大麻)が一般的になる前は 苧麻 ( 青 苧 とも言われ 小地谷 縮 や 奈良 晒 の原料)を緒といっていました。大麻が緒といわれるようなると苧麻は 真麻 といわれるようになります。ちょうど、 綿 といわれていた絹が16世紀に綿花が入って来ると 真綿 と呼ばれるようになったことと同じですね。
もうひとつ麻と呼ばれるものに亜麻があります。亜麻はアフリカ、ヨーロッパでは紀元前から栽培されており、ミイラの包帯としても有名です。日本には19世紀になってやっと入ってきました。英語ではリネンといわれ、繊維、布、衣類の総称で、ホテルや病院でリネン室といえば洗濯物を 扱 う部屋のようになっています。また我々が「麻のハンカチ」とか「麻のワイシャツ」と言った場合はほとんど亜麻のことでしょう。分類の混乱が起こっているわけですね。
さて、苧麻のことですが、英語ではラミーと言われ、やまと言葉では苧の一文字を書いて「からむし」と言われます。「から」は唐に間違いないでしょうが、「むし」とは何でしょうか。広辞苑によりますと、「朝鮮語のモシ(苧)またはアイヌ語のモセ( 蕁 麻 )が転じたもの」だそうです。蕁麻とは 刺草 のことで、茎の皮からは繊維がとれて、糸や織物の材料となり、若芽は大変美味しい食べ物です。(アイコ、アイタケと呼ばれる山菜。ミズ、ミズナの仲間。ミズ= 赤 苧 、『そ』は繊維や衣の古代語、茎が赤いから赤苧、青いのが青苧、太平洋戦争中はミズでも衣服を作った)ちなみに、成長した蕁麻(刺草)の 棘 には蟻酸が含まれているので、皮膚に刺さると、虫に刺されたときと同じで、ひどく痒く、また、中折れして抜けなくて湿疹状態になります。2時間ほどで、痒みは去るのですが、このことが 蕁麻疹 の本来の意味なのですね。
大麻、亜麻、苧麻は栽培種ですが、この刺草は、ほぼ全国の野山の湿地に自生しており、北へ行くほど、群落の規模も大きくなっていきます。初期の縄文人は移動生活が主で原則として栽培を嫌いましたから、こんなに便利な植物を見逃すはずがありません。縄文人の末裔といわれるアイヌ人はこの自生地をモセウシと言いました。ウシは場所の意味ですから「 刺 草場 」ということになりますね。(昔の農村では屋根を 葺 く為の 萱 の自生地を「 萱場 」といい、共同で手入れをしていた。地名、人名として多くの字体で残っている)北海道旭川市の西に 妹背牛 というところがあり、道内にはそのほかにもモセウシという地名がたくさんあります。
実はスキーの友人で長野県松本市の 百 瀬 君に、近くにモセとかモセウシという地名があるかどうかきいてみたのですが、「そんなのないよ、だけど、百瀬という地名は昔、あったみたいだ」との答えでした。上記の百瀬君、茨城県鉾田市で同級生だった小野瀬君、長野県 東 御 市在住で釣り具製作会社オーナーの野瀬さん、この方々は風貌も含めて縄文人の末裔に思えてなりません。