「画家にも作家にもなれなかった者が音楽家になる」

音楽を聞いていて、初めて聞いた曲なのに妙に懐かしかったり、知っている曲を聴いても、その曲を初めて聴いたときの場面や風景を思い出したり、不思議な感覚に ( とら ) われることがありませんか。

この「囚われる」という現象は、あらゆる芸術の中で音楽が一番強いようです。朝起きたときに口ずさんだメロディーが頭から離れず、一日中、何百回も口笛を吹いて繰り返してしまうことが、私には、よくあります。

都内、大美術館の午後445分、 ( かす ) かな音量で「蛍の光」が流れると、人々は一斉に、しかも 粛々 ( しゅくしゅく ) と出口に向かいます。

10分後、誰1人として、いなくなってしまいました。1000人以上もの鑑賞者がいたはずなのに。

不特定多数の人々に一糸乱れぬ行動を起させる――この 大事 ( おおごと ) を言語表現で指示するのは至難の ( わざ ) でありましょう。

このように音楽は人間の行動や内面に直接作用するため、儀式や宗教、それに最近では精神医療にも使われます。

「歌手になれなかった者が演奏家になり、演奏家になれなかった者が指揮者になり、指揮者になれなかったものが作曲家になる」という言い伝えが音楽界にはあります。

この伝でいくと「画家になれなかった者が彫刻家になり」とか「作家になれなかった者が詩人になり」とか、「画家にも作家にもなれなかった者が音楽家になる」とも言えるかもしれません。

前頭葉の中のイメージが何らかの媒体に昇華されたものが芸術です。言葉や絵ならば解りやすいが、作曲・演奏の表現形式は、とても解りにくい。その解りにくいものに最も心が囚われるということは、どういうわけなのでしょう。

あらゆる芸術の ( みなもと ) には何か共通するものが ( ひそ ) んでいるような気がしませんか。

絵画・彫刻・建築・工芸・文芸などの奥の深いところに流れているもの、それにはどうも、音楽のようなものが含まれているように、私には思えてなりません。

心の耳をそばだてると、それぞれから ( かす ) に風のささやきのような、小鳥のさえずりのような、せせらぎのつぶやきのようなものが聴こえてくるような気がしませんか。

共通して流れているものは地下水脈の中で繋がり、それぞれからミネラル分のようなものが溶け込み、混ざり合うように思えます。そして泉のように地上へ顔を出したもの、それが現実のメロディーやハーモニーとなって耳に到達するように思えてなりません。

それらは茶道で使われる水のように、得も言われぬ微妙な味を隠し持っているようです。そして、味の解らぬ者にでも、最低限、喉の渇きだけは確実に癒してくれるのです。

ミュージアムもミュージックもミューズから出た言葉なのでしょう。ミューズはギリシャ神話の最高神ゼウスの娘で芸術全般を ( つかさど ) る神とされています。

音楽が人間の行動や内面に直接作用するのは、この女神の 仕業 ( しわざ ) なのかもしれません。

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