「あなたを信じています」

テレビドラマなどでは「あなたを信じています」とか「私を信じて!」などという台詞がよくでてきます。観ている私は、まず信じません。その台詞が出てくると必ずと言ってよいほど、どちらかが裏切られてしまうからです。

ご婦人方は初対面の人をよく「いい人とねぇ」とか「やさしい人ねぇ」などと単純に決めつけますが、その場に居合わせると、逃げだしたくなってしまうのは私だけでしょうか。

人の内面は一筋縄では ( くく ) れません。清と濁・善と悪・慈悲と酷薄・誠意と不誠実などが微妙に入り乱れ、不安定で、あやふやで、そのときの都合でどうにでもなってしまうものです。そんな不確かなものを「信じます」とか「信じてください」などと、とても恐ろしくて言えません。言い切ることのできる人は、文字通り自信があるのでしょうが、はたして他人はもちろん自分をも絶対的に信じることなど、できるのでしょうか。

「いい人」などと人の性格を一言で片付けることもいやらしいですね。自分は当然「いい人」であって、その仲間に入れてあげると言っているような気がしますからね。

野坂昭如の「 火垂 ( ほた ) るの墓」は一般的に戦争の悲惨さを描いた名作とされていますが、それ以上に人の心の愚劣さ・頼りなさ・移ろいやすさ・そして気高さを、子供の目を通して知らしめる作品でありましょう。

信じ合っている夫婦は決して「信じています」などと言いません。ですから「信じています」と言ってしまうと「信じていない」ことになってしまいます。

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